子どもを伸ばす教育とは?木村健太先生に聞く『楽しく学ぶ』『自ら学ぶ』子どもに育てるためのヒント

広尾学園中学校・高等学校の改革をはじめ、これまでの学校教育を根本から改革し、子どもが楽しく学ぶ環境作りに日々邁進する木村健太先生。2024年から千代田中学校・高等学校校長 (※2025年校名変更予定/現:千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院)に着任し、教育改革を実践しています。多くの生徒と向き合い、また父として我が子と接するなかで感じていることを伺いました。

東京都千代田区にある千代田中学校・高等学校の校長 木村健太先生

千代田中学校・高等学校(※2025年校名変更予定/現:千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院)木村健太先生

「共感」の声かけで
子どもの「楽しく学ぶ姿勢」を育む

私のモットーは「学ぶようにあそび、あそぶように学ぶ」です。この感覚は非常に大切で、勉強でも何でも強制されると嫌になりますよね。ですから、子どもが自ら楽しく学びはじめることがとても重要です。

そのためには、子どもと同じ方向を見て接することがポイントです。まずは日頃の声かけから意識してみてください。私は、子どもや生徒たちに接する際、主語が「You」のメッセージをできるだけ使わないようにしています。「You」には「あなた」という意味のほかにも、英語圏では一般論を述べる際の主語としても使われます。

日本語での会話においても、「皆も通っているから、あなた(You)も塾へいくべき」といった一般論の押し付けにつながる場合が多く、また、「あなた(You)は、もっと勉強するべき」と伝えても、強制されたりコントールされたりしていると感じ、どちらも子どもには響きません。

そこでおすすめなのが「共感」しながら「We」を主語にした会話をすることです。そのためにまずは、学校での出来事などを子どもにたくさん話してもらってください。「今日はどうだった?」と漠然と質問するのではなく、今日は何が楽しかったのか、どんな教科の何の単元を習ったのかなど、具体的に質問するのがおすすめです。子どもからたくさんの話題を引き出すことができますし、会話のなかで親の共感を伝えるきっかけを増やすことができます。

そして会話の際は、相槌をうってただ話を聞くのではなく、「おもしろいね。もっと知りたいね」「もっと知るために何をやろうか」と子どもと一緒の視点で感想を伝えたり、質問をしたりする「We」での会話を意識してみてください。評価するのではなく「共感」することが大切です。

「共感」しても安易な「譲歩」はNG
子どもと一緒に考える習慣を

「We」での会話が難しいときは「I」を主語に、まずは自分がどう感じたかを伝えましょう。例えば、親子で決めた約束の時間を過ぎてもゲームに没頭する子どもに対して、「私(I)は約束を守ってくれていないことが悲しい」と伝え、そのうえで「どうすれば約束を守ることができるか、一緒に(We)考えよう」と提案してみてください。


まず、約束を守れなかった原因を一緒に考え、解決策を探ることで、例えば、時間が過ぎていることに気づかないからアラームをかけるなど、何かしらの対処法を試すことができます。頭ごなしに叱ってしまうと、解決策を一緒に考える余地も無くなってしまいます。
また、こういったやりとりを重ねることで、子どもたちにとってお父さんお母さんが、「一緒に考えてくれる存在」になりますし、うまくいかないからと投げ出すのではなく、「まずは考えてみる」という姿勢も育まれます

このとき「I」のメッセージと同時に「We」で提案することで、子どもに罪悪感をもたせてコントロールするようなことも起こりません。
子どもにとって、ゲームを中断することはとても難しいことです。そこはもう100%共感してあげてください(笑)。ただしゲームを中断する大変さに「共感」することと、そのまま「少しくらいなら」と、続けることを許してしまう「譲歩」とは別の問題です。「共感」を示しても安易に「譲歩」する必要はありません。しっかり線引きをしたうえで、「どうすれば約束を守ることができるか」を一緒に考えてあげてください。

学ぶ楽しさや感動を
親子で共有できる環境づくりを

「褒める」ことと「叱る」ことは、どちらも親の思いどおりに子どもをコントロールすることにつながります。親が思う理想の子ども像に近い行動をとったときは「褒める」、そうでないときは「叱る」からです。一見正しく感じる「褒める」ことの弊害は、人が見ていないところでは頑張らなくなる、つまり評価の基準が人の目になってしまうこと。一番大切なのは、子どもたちが「自分で」考えて、決めて、行動することです。


子どもは本来、知らないことを学ぶことが大好きです。しかし、小中高と過ごすうちに、なぜか勉強が嫌いになってしまう。OECD(経済協力開発機構)が実施した調査などをもとに経済産業省がまとめた「未来人材ビジョン」(2022年)によると、先進国のなかでも日本の教育水準は非常に高いにも関わらず、大人の仕事や学習への意欲の低さが災いし、残念ながら日本人は国際社会で有益な人材とは見なされていないという結果でした。学校で必死に勉強しても、社会に出た瞬間に学ばなくなってしまうのは、やはり勉強が「やらされているもの」だからでしょう。教育に関わる者としてこんなに残念なことはありません。

まず、大人が楽しんで学び、その感動を共有しましょう。私は生物の教員として、自分が楽しいと思っている生物学の楽しさと、新たな発見があったときの感動を共有する形で授業を行ってきました。すると、生徒たちは生物学だけでなく「学ぶこと」自体を楽しんでくれるようになりました。子どもたちから教えてもらうことも多く、大人にはない視点に驚かされます。

学ぶことを楽しめる子どもは、自分の興味の赴くままに学びを極め、その領域を広げていくようになります。ぜひ、ご家庭でも子どものユニークな考えに触れたときはその感動を素直に伝えてあげてください。

お話を伺ったのは

千代田中学校・高等学校(予定)校長 (現:千代田国際中学校・武蔵野大学附属千代田高等学院)木村健太先生

広尾学園中学校・高等学校で医進・サイエンスコースを立ち上げ、学習者の主体性を軸とした研究的な学びを進めてきた。学外では、内閣府総合科学技術・イノベーション会議、経済産業省産業構造審議会、同省未来人材会議、同省未来の教室、科学技術振興機構次世代科学技術チャレンジプログラム等の委員を歴任。初等中等高等教育と社会の連続性を意識しながら学びの本質について多方面から追求している。2024年度より現職。