スペインで設立された聖心侍女修道会によって、1947年に創立された清泉女学院中学高等学校。
玉縄城跡という豊かな自然に囲まれた学び舎で、キリスト教教育を軸に、やさしさと品格を備え、社会に主体的に関わり貢献する女性の育成を目指します。
同校の教育の根幹をなす「ライフオリエンテーションプログラム」の一つである「宗教倫理」について、倫理科主任の小野浩司先生にお話をうかがいました。
倫理科主任 小野浩司先生(清泉女学院中学高等学校)
自己をみつめ、他者や世界に関心を寄せる
答えのない問いに向き合う「宗教倫理」
「AIを哲学する」という高校1年「宗教倫理」の授業は、昨今のAI技術の進歩を知ることから始まります。
2010年代に注目された「ディープラーニング(深層学習)」を経て、「生成AI」から今話題の「ChatGPT」まで、AI最前線のようすが伝わるドキュメンタリーも視聴しながら、急激に進化を遂げるAI技術の概要を学びます。
(清泉女学院中学高等学校)
その後、配られたのは読売新聞の人生相談の記事。子育ての悩みに回答する2つの記事が、生徒たちのクロームブックに送られます。
どちらかが生成AIで作成したものですが、両方とも的を射た回答で、判断が難しいという声も聞かれました。
生成AIでつくられた記事はどちらなのか?判断が付かないという生徒も。(清泉女学院中学高等学校)
このように、AIのめざましい進化を実感した後は、『ターミネーター2』という映画の一部を鑑賞します。
シュワルツネッガー演じるロボットが人間を守るために敵と戦うストーリーですが、「心」がないはずのロボットに、人間が感情移入していくようすが描かれています。
最強のAI囲碁ソフト「AlphaGo」と世界トップクラスの棋士が対局するドキュメンタリーフィルムを鑑賞(清泉女学院中学高等学校)
この後、「AIが『心』をもったら、友人、恋人、家族など、『大切な存在』になれると思うか」という先生の問いに対して、各自クロームブックに入力した答えを匿名で共有し、皆で考えを深めていきます。
「倫理科で大切にしているのは、一度立ち止まって考えてみること」と小野先生。
中学1年から高校3年まで、週1回の「宗教倫理」の授業は、キリスト教だけでなく、様々な宗教、思想、哲学、社会問題に触れ、視野を広げ、めまぐるしく変化する社会の中で「どのように生きるか」を考える時間だと言います。
「全学年に共通する宗教倫理のテーマは『自分、他者、世界』。例えば、『AIと心』という答えのない問いについて深く考え、周りの意見にも耳を傾けることは、他者の気持ちを慮り、自分自身を見つめることに繋がります」。
人工知能といかに共存していくか?
清泉女学院の生徒が主催する「中高生AI倫理会議」とは?
小野先生が「AIを哲学する」という授業を始めた当時、授業にご協力いただいた業者の方のアドバイスを受け、2016年第一回「AI倫理会議」が実現しました。
その後も課外活動として年度に1回のペースで開かれているこの会議は、「人間と人工知能はどのように共存していくべきか」というテーマのもと、高校生有志が意見交換しながらAIに関する「倫理憲章」を作成するというもの。
毎年、他校からも有志を募り、専門家の講演を伺ったうえで他校生徒とディスカッションを行い、倫理憲章を作成します。
当初は「人工知能にできること・できないことは何か」という話題からスタートしましたが、わずか7年で人工知能が人間のように創作物を生み出す時代がやってきました。
そこで、2024年に開催された第7回ではテーマを生成AIに絞り、その理解と活用について考え、2025年は猫型ロボットドラえもんを作る研究を続けていらっしゃる日本大学の大澤教授のお話をうかがい、「AI・ロボットと心」をテーマにディスカッションしました。
2016年から毎年開催されている中高生AI倫理会議。作成した倫理憲章は内閣府に提出して、担当者の方から意見もいただきます。(清泉女学院中学高等学校)
「これまで8回の会議を開催してきましたが、すべて生徒が担ってきました。テーマや講演を依頼したい人が決まったら、先ずは教師にプレゼンするための資料作成から。企画が通ったら講演者へのオファーや他校の招待、司会進行から会議の報告書のまとめまで、すべて生徒たちが進めます。AI倫理会議は、人口知能について考えを深めるだけでなく、一連の仕事を通して主体的に学ぼうとする行動力や探究心も育みます」と顧問を務める小野先生。
「10回目の節目を迎える2026年には、人工知能の研究室を訪ねるツアーなど、新たな企画も取り入れてみたいですね。今後も学年や学校の垣根を越えて、自由に意見交換できる機会を提供していきます」。
(清泉女学院中学高等学校)
10月5日〜10月6日公開期間の記事に間違いがありお詫びいたします。
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