脳の発達のしくみからわかる「 子どもの習い事 」の始めどき

瀧先生 ビタミンママ
子どもの成長に欠かせない習い事。子どもが小さいうちは親が主導して習い事を決めることも多いのではないでしょうか。
わが子に合った習い事とは?いつからはじめるべき?など、悩みは尽きません。

ここでは、脳の発達に合わせた習い事の「始めどき」を、脳の専門家・瀧靖之教授に伺いました。
習い事選びの参考にしてみては?

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領域によって異なる
脳の発達のピーク

人間の脳は、領域によって成長の始まるタイミングが異なります。そのため、脳が大きく成長する時期にその領域の働きに合わせた習い事をはじめると、能力が伸びやすいと考えられています。

子どもの脳の発達は思春期頃まで続きます。頭の後ろにある後頭葉(視覚野や聴覚野の領域)から順に発達しはじめ、その上部にある頭頂葉では空間認知や感覚を、最後に脳の前方にある前頭葉で言語や記憶、判断や思考を担う領域が発達します。この発達の時期や順を参考にすれば、年齢に合わせた習い事の「はじめどき」が見えてきます。

生まれてすぐに発達を始めるのは視覚野・聴覚野など後頭葉の領域です。親が語りかけたり、抱きしめたりすることで愛着形成が進み、絵本の読み聞かせや日常的に音楽を聞かせることで耳や目の力が伸びると言われています。親子で一緒に楽しめる習い事で、できれば目や耳を使うものがおすすめです。

幼児期にはじめたい
体を使った習い事

3〜5歳になると、いよいよ習い事を本格的にスタートする適齢期と言えます。特に3歳頃からは、運動能力が伸びる年頃です。
運動能力には、体全体を使う「粗大運動能力」と指先の器用さなどの巧緻性を含む「巧緻運動能力」があり、どちらの能力を伸ばすことも重要です。体を動かす習い事は「海馬」や「扁桃体」の発達を促します。不安やストレスなどの軽減には扁桃体が大きく関わっているため、有酸素運動を行うことは心身のリフレッシュや健全な成長に大いに役立つと言えます。

「巧緻運動能力」で言えば、楽器を演奏する習い事は特におすすめです。例えばピアノの場合、弾くことによる指先の巧緻性、譜面を覚える暗譜によるワーキングメモリ、鍵盤の位置を覚える空間認知能力、リズム感など、さまざまな能力向上が見込めます。

瀧先生 ビタミンママ

また、絶対音感を身に付けるのにも適した時期でもあります。脳の発達の面から見ても、両手で別々の動きをするピアノは、左右の脳をつなぐ「脳梁(ルビ:のうりょう)」と呼ばれる神経繊維を発達させます。楽器演奏で頭と手足を使うことで脳と手足を繋ぐ「錐体路」という神経ネットワークの発達も促され、脳の発達にも非常に良い効果が期待できると言われています。

生涯を通して成長する脳
始めるのに「遅すぎる」はない

続いて、人気の習い事「英会話」はどうでしょうか。聴覚野が発達を始めるのは生後6カ月頃からで、この頃から母国語の理解が始まり、10〜18カ月頃には母国語に対する嗜好性がより高まると言われています。英会話はその後に発達する言語野の領域の発達が重要で、発達のピークは8〜10歳と言われていますから、効率的な言語の習得を目指すなら、この頃までに英語に触れる体験をスタートさせるのがおすすめです。

瀧先生 ビタミンママ

では、脳の各領域の発達のピークを逃した場合、それぞれの習い事を始めるには遅すぎると諦めるべきかというと、決してそんなことはありません。脳には「可塑性(ルビ:かそせい)」と呼ばれる働きがあり、いくつになっても発達し続けるという特性があります。

つまり脳は一生涯成長を止めないということです。もちろん、身につくまでにかかる時間は発達のピーク時よりも長くなるかもしれませんが、続けることで必ず成果は現れます。しかも、脳の可塑性は精神的な成長にも見られるため、大人になってからでも好奇心や積極的に物事に取り組む姿勢を育むことが可能だと言えます。そう考えれば、適齢期を数年過ぎた程度の子どもには、まだまだ能力を伸ばす可能性が大いにあると言えるでしょう。

習い事が続く秘訣は
親が楽しむ姿を見せること

子どもはまねをするのが大好きで、楽しいことにしか興味を示しません。挑戦させてみたい習い事は、まず親が楽しんで挑戦している姿を見せるとよいでしょう。そうすることで、自ら進んで続けるようになります。

わが家でも、まだ息子が小さかった頃にピアノを習わせたいと考え、私が先に習いはじめました。父親である私が楽しそうに演奏する姿を見て、息子も自ら「習いたい」と言い出したのを覚えています。子どもの上達は早いので、あるレベルになると追い抜かされてしまうものですが、それもまた子どものやる気や自信につながり、小学生になった今でも楽しそうにピアノを続けています。

それでも習い事を嫌がるようなら、別のことに挑戦してみてもいいでしょう。その際、次に挑戦する習い事や興味を持って取り組めるものを見つけてあげるなど、習い事を辞める=子どもの「失敗体験」にしないよう親の前向きな働きかけが必要不可欠です。

また、習い事を途中で辞めてしまってもがっかりする必要はありません。この経験が大人になってから再度趣味としてその習い事を始めるきっかけになることも多いからです。まったく初体験よりもチャレンジのハードルが下がり、人生がより豊かになる趣味を持つことにつながれば、生涯にわたってわが子の脳の健康維持に一役かってくれる存在になるかもしれません。

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お話を伺ったのは

東北大学加齢医学研究所 教授瀧靖之先生

医師。医学博士。大規模脳画像データベースから、脳の発達、加齢を明らかにし、生活習慣が脳に与える影響などを研究。学会賞、論文賞など多数の受賞歴を持つ。『16 万人の脳画像を見てきた脳医学者が教える「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)など著書多数。