スペインで設立された聖心侍女修道会によって、1948年に創立された清泉女学院中学高等学校。
玉縄城跡という豊かな自然に囲まれた学び舎で、キリスト教教育を軸に、やさしさと品格を備え、社会に主体的に関わり貢献する女性の育成を目指します。
今回は、生物が専門の小林建介先生による淡水魚の人工授精実験など、生徒たちが思わず夢中になる個性豊かな「生物」の授業の魅力に迫りました。

清泉女学院中学高等学校 理科教諭 小林 建介 先生
広大な森も学びのフィールド!
五感を使った体験を何より大切にする清泉の理科
清泉女学院中学高等学校の理科教育において、最も根底にあるのは「本物に触れる学び」です。
教科書に書かれている知識を暗記するだけでなく、生徒自らが手を動かし、観察する実験の授業が数多く取り入れられているのが大きな特長です。
その学びの舞台は、教室の中だけにとどまりません。
生徒たちはしばしば教室を飛び出し、豊かな自然が広がる校内や県内の様々なフィールドを散策しながら、生きた実習を行います。
例えば中学1年では、入学して間もない時期に、学校の敷地内を歩いて在来種と外来種のタンポポの分布調査を実施します。
また、校内に広がっている豊かな森には、タヌキやハクビシン、さらにはニホンアナグマなど、多種多様な野生動物が生息しており、それらの生態を観察する機会もあるそうです。

高2の生物で「遺伝」に関する授業を行う小林先生。突然変異という難しいテーマを、「日本人にはなぜたくさん牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする人が多いのか」といった身近な疑問を交えつつ展開。
ユーモアがあって分かりやすい授業が生徒たちに大人気です。(清泉女学院中学高等学校)
「文章や写真、動画から得られる知識は、間接的な情報であり、物事のごく一部の側面に過ぎません。
やはり実際に自分の目で実物を見て、手で触ってみなければ分からない感覚があると思っています」と、生物担当の小林建介先生は力強く語ります。
「だからこそ、本校の理科は何よりも“五感を使った学び”を重視しているのです」。
その言葉通り、同校の生物室には生徒たちの知的好奇心を刺激する仕掛けがたくさん詰まっています。

生物の「発生」や「遺伝」について、「机上の勉強だけでなく、本物に触れて学んでほしい」と淡水魚の人工授精実験を導入している小林先生。生物教室の窓際には、生徒たちが毎日観察できるよう、いくつもの水槽が並べられていました。(清泉女学院中学高等学校)
タイリクバラタナゴの人工授精に挑戦。
小さな命の誕生を目の当たりにする感動
小林先生の専門分野は、淡水魚の進化や分類です。
そこで、高校2年の生物で「発生」や「遺伝」を学ぶカリキュラムに、タイリクバラタナゴという淡水魚の人工授精を行う実験を取り入れています。
タイリクバラタナゴのメスは、自然界では生きた二枚貝の中に卵を産み付けるという珍しい習性を持っています。
そのため、産卵期を迎えると、メスはお腹から「産卵管」と呼ばれる細長い管を長く伸ばします。
メスが産卵管を生きた貝の出水管に差し込んで産卵すると、間髪入れずにオスが貝の入水管付近に精子を放出し、精子が水と一緒に貝の中に取り込まれて受精が完了するという仕組みです。
小林先生からその解説を聞いた生徒たちは、一斉に水槽をのぞき込み、「本当だ!細いけれど長い管が出ている!」「お腹の中に卵がたくさん入っていそう」と興味津々で声を上げます。
実際の実験では、シャーレにメスの卵を慎重に取り出し、そこにオスの精子をかけて人工的に受精を促します。
「顕微鏡での観察はもちろんのこと、肉眼でも受精卵が次第に形をかえ、成長していく様子が確認できるため、まさに目の前で命の不思議を体感できる実験です」と小林先生。

人工授精の実験に使用するのは「タイリクバラタナゴ」という淡水魚です。「カラフルなほうがオス。メスは産卵期になるとお腹から細長い管を伸ばします」と、魚類の研究が専門の小林先生が、その驚きの生態を詳しく解説してくれます。(清泉女学院中学高等学校)
今回の取材日の朝は、ちょうど受精卵から孵化した稚魚たちが、初めて元気に泳ぎ出したという最高のタイミングでした。
人工授精を行った生徒たちは、登校するとすぐに「わが子」の様子が気になって生物教室へと駆けつけます。
掛け合わせる親魚の個体は、水槽を泳ぐ魚の中から生徒たちが自由に選んだものです。わずか数ミリしかない極小の稚魚ですが、よく見るとその色や大きさに違いがあることが確認できます。
「アルビノ」と呼ばれる体が白く色素の薄い個体を掛け合わせたグループの生徒たちは、「私たちの稚魚は全体が透明で、目の色も黒くないみたい。
このままアルビノに成長するのか、見守りたいです」と、目をキラキラと輝かせていました。
単なる教科書の文字を追うだけでは決して得られない、実感を伴う確かな学びが、清泉の教室にはあふれています。

今回の人工授精の実験には、なんと全グループが見事に成功。この日の朝に卵から孵化し、元気に泳ぎだしたばかりというタイリクバラタナゴの小さな稚魚を、高校2年の生徒たちが愛おしそうに集まって観察していました。(清泉女学院中学高等学校)
生物学の授業から、人生の選択を支える
「命に向き合う」感性を育む
このような本質的な生物教育を受けて巣立っていった卒業生のなかには、小林先生の母校でもある信州大学の生物学科へと進学した教え子もいるそうです。
彼女は大学でサルの行動学を専攻し、在学中から学会で研究を発表して賞を獲得するなど、研究者の卵として活躍を続けています。
「その活躍を聞いたときは、本当に嬉しかったです。
もちろん、彼女のように生物研究の道へ進む卒業生は少数派かもしれません。
しかしまったく異なる分野で活躍するようになったとしても、この学校の授業やフィールドワークで経験したことを通して、自然を見る目が養われ、身の回りの生き物や環境に対する感度が上がってくれればいいなと思っています」と小林先生。
大多数の人、特に女性にとっては、人生を生きていくうえで、結婚や出産、自分や家族の健康は切り離すことのできない問題です。
「ここで感じた生命の不思議、大切さを忘れずに、将来、そうした身近な問題に向き合わなければいけなくなったとき、それぞれがベストな選択をして、自分なりの幸せな人生を歩んでほしいと願っています」。

「五感を使った学びを大切にしています」と語る理科教諭の小林建介先生。「生命の不思議や大切さを実感することで、生き物や環境に対する感覚を研ぎ澄まして、人生の糧としてほしいですね」と、生徒たちへエールを送ります。(清泉女学院中学高等学校)