「誰かと比べるのではなく、自分自身の可能性を高めてほしい」。そんな思いのもと、東京都稲城市にある駒沢学園女子中学校・高等学校では、グローバル教育、探究学習、AI教育を融合させた先進的な教育を展開しています。
揺るぎない自分軸を育み、一人ひとりが自分らしく成長できる学びとは。建学の精神を大切に受け継ぎ、2027年に創立100周年を迎える同校の魅力を、校長の土屋登美恵先生に伺いました。

土屋 登美恵 校長先生
他人と比べず、自分軸を持って可能性を伸ばしましょう
建学の精神が育む、揺るぎない「自分軸」
本校が何より大切にしているのは、生徒一人ひとりが自分らしく生きるための「自分軸」を育むことです。建学の精神である「正念・行学一如(しょうねん・ぎょうがくいちにょ)」には、その考え方が息づいています。「正念」とは自分を見つめ自己を確立すること。「行学一如」とは、生きることと学ぶことを一致させることです。
私は、人は生まれながらにして唯一無二の価値を持つ存在だと考えています。誰かと競争したり、他人と比べたりすることに大きな意味はありません。それぞれが本来持っている可能性や価値を見つめ、それを伸ばしていくことが大切なのです。
その考え方を象徴するのが「正念」です。本校では年に3回行われる坐禅に加えて、朝礼と終礼時にも「正念」を行っています。これは単なる伝統的な取り組みではありません。姿勢を整え、呼吸を整えながら自分自身と向き合い、心を見つめ直す時間です。私たちはこれを「自己の確立」と呼んでいます。
世の中が急速に変化する時代だからこそ、周囲の意見や流行に流されるのではなく、「自分は何を大切にしたいのか」「自分はどう生きたいのか」を考えられる人になってほしい。そのための揺るぎない自分軸を育てることが、本校の教育の土台にあります。

「正念」とは、自分を見つめ自己を確立すること。姿勢と呼吸を整えながら自分自身と向き合い、揺るぎない自分軸を育んでいきます。
また、「行学一如」の考え方のもと、未来を憂うのではなく「今ここで自分がやるべきこと」に真剣に向き合うことも重んじています。
授業に集中すること、友人と誠実に関わること、感謝の気持ちで食事をいただくこと。そうした日常の一つひとつに丁寧に向き合う中で、自分が大切にしたいことや、自分にできることが少しずつ見えてきます。その積み重ねが自分らしい生き方や進路を見つけることにつながり、やがて社会の中で必要とされる人へと成長していくのです。
本校では、グローバル教育・探究学習・AI活用を教育の3本柱としています。しかし、多様な価値観に触れるグローバル教育も、答えのない課題に向き合う探究学習も、AIを主体的に活用する力も、自分という軸がなければ間違った方向や誤った情報に流されてしまいかねません。だからこそ本校では、この建学の精神をすべての先進的な学びの絶対的な土台として据えているのです。
英語を日常に。実践を重視したグローバル教育

中学3年生全員が参加するシンガポール修学旅行。事前学習から現地での学校交流、帰国後の振り返りまでを通して視野を広げます。
本校のグローバル教育の特徴は、英語を「勉強するもの」ではなく「使うもの」として捉えていることです。私自身、英語の教員として「テストのための勉強」で終わってしまうもどかしさを実感してきたため、普段の生活の中でいかに実践できるかを大切にしています。
中学校では1年生からネイティブ教員が副担任として関わり、生徒たちの学校生活に寄り添っています。朝礼や学校行事、掃除、放課後の活動など、授業以外のさまざまな場面でも一緒に過ごすことで、日常の中に自然と英語が溶け込んでいます。ネイティブ教員は英語を教えるだけでなく、体育祭でクラスお揃いのTシャツを着て一緒に応援したり、時にはマナーなどの生徒指導も行ったりと、学校生活のすべてを共にしています。
また、週に1回の「English Day」では、朝礼から終礼までの連絡事項もネイティブ教員から英語で行われます。放課後には「English Room」で英語の宿題やスピーチのサポートを気軽に受けることもでき、生徒たちは楽しみながら英語力を伸ばしています。

放課後の「English Room」では、ネイティブ教員に宿題やスピーチの相談も可能。楽しみながら実践的な英語力を磨きます。
さらに、世界各国の出身であるネイティブ教員たちの個性を生かし、文化体験や料理イベントなども実施しています。家庭科室でその国のお菓子を一緒に作るなど、言語だけでなく、背景にある文化や多様な価値観に日常的に触れる環境を整えています。
中学校の修学旅行では、全員がシンガポール・マレーシアを訪れます。ただ海外を訪れるだけではなく、事前学習や探究活動を通して、それぞれの国の歴史や文化、多様性について学びながら準備を進めます。

「なぜ隣り合う国なのにこんなに違うのだろう」。現地での学校交流を通して、違いと共通点の両方を発見します。
現地では学校交流も行います。生徒たちは、隣り合う国でありながら文化や価値観が異なることに驚く一方で、好きな音楽やSNS、インフルエンサーの話題で同世代の生徒たちと自然に打ち解けることもあります。
そうした経験を通して、違いだけでなく共通点にも気づきます。世界を知ることは、同時に日本や自分自身を見つめ直すこと。本校では英語力の向上にとどまらず、多様な価値観を理解し、自分の考えを発信できる力を育むことを目指しています。
女子校だからこそ向き合える、女性の人生を見据えた探究
高校では、女子教育に特化した探究プログラム「ライフデザイン」を実施しています。「コミュニケーションスキル」「ウィメンズライフ」「マネープラン」「キャリアプラン」「ジェンダー」の5つの分野を通して、将来を自分らしく選択し、自分で人生を切り拓く力を育んでいます。
例えば、アンガーマネジメントや夫婦別姓、デートDV、月経、将来のお金の管理など、これからの人生で直面する可能性のあるテーマについて、講師の話を聞いたり、卒業生の経験に触れたりしながら考えていきます。正解が一つではないテーマだからこそ、自分の考えを持ち、他者と対話する力が育ちます。

女性が人生の中で直面するさまざまな課題について学び、自分らしい選択ができる力を育む、高校の探究プログラム「ライフデザイン」。
また、2024年度に新設された高校の英語クラスでは、「Komajo Quest English」という探究活動を行っています。地域や社会についての課題や地域の魅力について、英語で調べ、考え、発信する力を育むプログラムです。
高1では地域の施設や企業を訪問し、その魅力や課題を取材して英字新聞を制作します。3学期にはニュージーランドにターム留学する生徒も多く、自分たちがまとめた内容を現地で発信する機会もあります。留学に向けた事前学習から帰国後の探究までを一つの学びとしてつなげながら、実践的な英語力や発信力、課題解決力を磨いています。
AIを使う力と、情報を見極める力を育む
AIについても、本校では積極的に教育に取り入れています。一方で、使い方だけを知っていても危険です。以前、「交通ルールを知らないまま車を運転するようなものだ」という話を聞きましたが、まさにその通りだと思います。だからこそ、学校で正しい使い方を学ぶことが重要なのです。
授業では、AIが出した答えの中にある誤りを見つける活動を行うこともあります。AIは便利ですが、必ずしも正しい答えを出すとは限りません。そのため、個人情報を入力しないことや、出てきた情報を鵜呑みにせず自分で判断することを、教員が指導しながら活用しています。

AIを便利な道具として使うだけでなく、情報を見極める「メディアリテラシー」の力も身につけます。
こうした取り組みは教員の研究にも生かされています。本校の英語科教員は、「生成AIを活用した『思考力・判断力・表現力』を育成するライティング活動のモデル開発」で東京都私学財団賞を受賞しました。
研究では、高校2年の英語クラスを対象に、生成AIによるフィードバックを活用したライティング指導を実施。生徒同士が対話を重ねながら文章を改善することで、ライティング力だけでなく、思考力・判断力・表現力を育む効果が確認されました。
AIを単なる便利な道具として使うのではなく、思考を深めるためにどう活用するか。その視点を大切にしながら、今後も授業の中で活用を広げていきたいと考えています。
穏やかで優しい生徒たちが、6年間でたくましく成長
本校の生徒たちは、素直で優しい子が多いと感じています。日常生活を大切にし、食事への感謝、周囲への思いやり、利他の心を育む教育が、自然と生徒たちの中に息づいているのだと思います。
印象に残っているエピソードがあります。ある卒業生のお母さまが、卒業後に「娘がお弁当に感謝してくれた」と話してくださいました。中学1年からお弁当の写真を残していた娘さんが、卒業時に「毎日お弁当を作ってくれてありがとう」と花束とともに感謝を伝えたそうです。学校でも、食事を作ってくれた人や命をいただくことへの感謝を日々伝えていますが、それが生徒の心にしっかりと根づいていたのだと感じ、とても嬉しく思いました。
また、体調を崩した一般の方に、駅で本校の生徒が声をかけ、飲み物を差し出したという話を聞いたこともあります。朝礼でその親切な行動を紹介しましたが、名乗り出る生徒はいませんでした。そんな控えめで奥ゆかしいところも、どこか本校の生徒らしいと感じました。

体育祭や探究発表など、多彩な活動の中で活躍する生徒たち。日々の挑戦の積み重ねが、一人ひとりの可能性を広げています。
中学入学時には不安そうだった生徒が、6年間で自信を持って自分の考えを話せるようになる。その大きな成長を、私は校長面談の中で実感しています。中3で高校進学に向けた面談を行い、高3でも進路に関わる面談をします。同じ場所で同じ生徒と向き合うため、その成長の大きさに驚かされます。
本校は一人ひとりが埋もれにくく、発表や探究、行事など、自分の役割を持てる場面が多くあります。静かで控えめに見える生徒の中にも、それぞれに秘めた力があります。その力が6年間で少しずつ引き出され、堂々と自分の言葉で語れるようになっていくのです。
100年の伝統が息づくこの学び舎で、あなただけのブレない軸を見つけ、自分らしい未来へ一緒に羽ばたいていきましょう。