溝上慎一
(学校法人桐蔭学園理事長、桐蔭横浜大学学長・教授)
※文中では主に「子ども」と呼んでお話ししていきますが、対象はおおよそ小中学生から高校生くらいまでを指しているとしてお読みください。
1.受験のシーズンですね
先日大学入試で、今年からセンター試験に代わり「大学入学共通テスト」が実施されました。
受験者にとっては、新しい入試ということだけでもうまく試験に取り組めるかさぞかし不安であったろうと思いますが、その上新型コロナウィルスの第三波が直撃していて、会場での感染予防対策等を細かく求められながらの受験でした。
首都圏を始めとする一部の地域では緊急事態宣言のさなかでもあり、試験に集中しにくい状況であっただろうと心中を察します。これから中学受験や高校受験を控える小学生、中学生の子どもも併せて、受験生の皆さまには、体調や健康に最大限留意して、この苦難を乗り越えるべく頑張ってほしいと思います。
他方で、大変なのはよくよく承知していますが、例年通り入試が行われない今年の状況を悲観的に捉え過ぎないようにしてほしいとも思います。苦難は、受験者みんなに課せられています。
いろいろ不安や不満はあって当然ですが、それにとらわれすぎず、全国の受験者がこの状況に立ち向かって頑張っていると思って、皆さんも頑張ってください。
2.他者に思いを馳せられる人が成長する
皆さんの受験を裏方で支えている人に思いを馳せてくれれば、とても嬉しいです。入試を実施する学校や大学、関係者は、受験生が安心して当日の試験に臨めるように頑張っています。感染予防対策も念入りにチェックして準備を行っています。受験生の皆さまだけが苦しいのではありません。
いろいろな方々が受験生を支え応援をして、皆さまのためにできることを精いっぱいしています。そのような関係の人びとにも思いを馳せられれば、きっと受験以外のさまざまなことにも頑張れるようになると思います。
自分のことだけを考えている人の成長には限界があります。他の多くの動物には備わっていない人という高等動物の大きな能力の一つは、「心の理論(theory of mind)」と呼ばれる、他者の心を想像して社会を構築していくことです。
簡単に言えば、想像の力をもって他者と共に社会を作り上げていく社会性が人には備わっているということです。
この社会性を支える能力が「心の理論」と呼ばれる力です。多くの動物にも社会性は認められますが、それは遺伝的に備わったあらかじめ決められたものです。人は心の理論をもって、他者や集団の心を想像し働きかけ、そうして独自の社会や文化を創り上げていくのです。
データからも、他者に積極的に関われる人、思いを馳せられる人がさまざまなことに挑戦をし、頑張っている様子が実証的に示されています。是非これを受験にも当てはめて、皆さんが社会的に受験を大きく捉え、一段と成長されることを祈っています。
3.再出発のきっかけにする――1年を振り返って
新型コロナウィルスの感染拡大が始まった昨年の春から、5回の連載で執筆してきました。今回が最終回です。
緊急事態宣言、ステイホームのため、子どもたちの中で学習が遅れたり生活が乱れたりと多くの問題が生じました。しかし、そうならなかった子どももいることを忘れてはいけません。
その違いは、コロナ禍以前の学校や家庭での過ごし方、学習への向き合い方にあったと考えられています。データの裏付けもあります。学習の遅れ、生活の乱れなど、起こってしまったことにくよくよしていても前に進めないので、それはそれで受け止め、新たな再出発のきっかけにしていただきたいと思います。
もしコロナ禍を契機にポジティブに再出発ができ、そして問題を改善していければ、まさに「災い転じて福となす」です。
また、受験者にとって今年の苦難は想像を絶するもので、かわいそうだと思う気持ちは正直あります。
しかし、私自身、浪人したばかりに共通一次からセンター試験に変わり、その直前に始まったAB連続方式という国立大学の複数受験化がたかだか2年で終了・後退となり、入試方式がコロコロ変わる様にあたふたしたのを思い出しています。
世間も怒っていました。今振り返って、それが良かったなどとまったく思いませんが、それを乗り越え、そうして今があるのだなとは思っています。
「あのときは大変だったけど、私はよく頑張ったな」と後々言えればステキですね。受験生の皆さま、応援しています。頑張ってください。
【大丈夫!コロナ禍の教育】は、桐蔭学園とビタミンママのコラボ企画です
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溝上慎一(Shinichi MIZOKAMI, Ph.D.)
学校法人桐蔭学園 理事長、桐蔭横浜大学 学長・教授、学校法人河合塾 教育研究開発本部 研究顧問
プロフィール
1970年生まれ。大阪府立茨木高校卒業。神戸大学教育学部卒業、1996年京都大学助手、2000年講師、2003年准教授、2014年教授を経て、2019年4月より現在に至る。京都大学博士(教育学)。