かぜに効く抗菌薬はありません〜抗菌薬の適正使用について〜

かぜに効く抗菌薬はありません
〜抗菌薬の適正使用について〜

小児科の外来で最も多く診るのは上気道感染(かぜ症候群)です。その多くはライノウイルスやRSウイルス、アデノウイルスなどによって引き起こされ、一定の季節性があります。
多くの保護者が小児科で「かぜ」の診断を受けたことがあると思います。「かぜ症候群」とは上気道粘膜の炎症に基づく鼻水、鼻閉(びへい:鼻づまり)、咳、のどの痛みなどの局所症状に加え、発熱、倦怠感、食欲不振などの全身状態不良を呈する症候群です。

一般的にかぜ症候群の治療は対症療法(症状にあった処方をする治療)です。小児科ではカルボシステイン、アンブロキソールなどの処方薬をもらったことのある保護者の方も多いのではないでしょうか?
新型コロナウイルスの流行で、ウイルスには抗菌薬は効かないことが一般に広く知られることになりましたが、かぜ症候群もなんらかのウイルスが原因であることが多く、対症療法で自然治癒が期待できます。しかし、実際には鼻水が濁っているから、咳が長引いているからといった理由で抗菌薬を処方された経験はありませんか?いまでも多くのかぜ症候群に対して抗菌薬の不適切な使用が認められます。

では抗菌薬を不適切に使うとなにが問題なのでしょうか?

一番は耐性菌の獲得です。子ども達はこの世に生を受けたとき、耐性菌を持っていることはほとんどありません。耐性菌とは薬に対して抵抗力をもつ細菌のことで、不適切な抗菌薬が連用されることで、いろいろな抗菌薬に対して抵抗力のある菌を持ってしまい、本当に抗菌薬が必要な時に効かないリスクが高まってしまうのです。

かぜに抗菌薬を投与する利益と不利益を検証した論文(Meropol SB, et al:Ann Fam Med. 2013;11(2):165-72.)があります。これによると、かぜに抗菌薬を投与するメリット(利益)として、かぜ症候群に対して12255回の抗菌薬を投与すると1回の肺炎を予防できるとあります。対して、抗菌薬の副作用で生じるアナフィラキシーショックが1万人に1人、蕁麻疹が100人に1人、下痢が10人に1人と書かれています。要するに、抗菌薬をかぜ症候群に使用しても副作用の方が利益を上回ってしまうのです。

ここまで書くと抗菌薬は悪者だと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。小児科領域でも細菌性気管支炎・肺炎や溶連菌感染症、中耳炎(中等度以上)、尿路感染症などで抗菌薬を使うことはありますし、抗菌薬そのものは医学の進歩に多大な貢献をしてきました。一番大事なのは正しく使用することです。
適切な鑑別もせずに抗菌薬を使うことは未来ある子ども達にとっては「余計なお世話」でしかありません。初見で細菌とウイルスを鑑別することは一定の難易度がありあすが、小児科医は子ども達に本当に必要な抗菌薬はなにかを考え続け、保護者に伝えることが使命であると考えています。

お話

 

みらいこどもクリニック港北綱島
院長 中山詩礼先生

みらいこどもクリニック港北綱島の基本情報や他の取材記事はこちら▶︎

最新情報をチェックしよう!