日々のエール交換で、やる気リセット ~たかが「あいさつ」、されど「あいさつ」~

國學院大學人間開発学部の先生方による子育てエッセイをお届けします。幼児期から小学生までの子育てファミリーへの応援メッセージが込められたエッセイです。

 9月はお子さんにとって夏休みが終わり、学校が始まるリセットの時期ですね。

そこで、気持ちの切り替え方法として、あいさつによるエール交換から紹介します。「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「おやすみ」といった日々のあいさつは、小学校3年生を境に、心がけている親と、心がけていない親の割合が逆転してしまいます。しかし、「挨拶」の「挨」には心を開く、「拶」にはあなたを受け入れるという意味があり、実は「あいさつ」は、心を開いてあなたを受け入れますという、とても意味深い行為でもあるのです。

日本では、あいさつは礼儀作法からするものだと思われがちです。だが、「人種のサラダボウル」と言われている米国では、あいさつは大切な公民教育です。あいさつは、相手を認めているという大切な行為ととらえられていて、相手が知らない人こそ、あいさつを心がけます。あいさつが返ってこないということは認められていない、となってしまいますからね。

 問題を抱える学校が立ち直るのに「あいさつ運動」が有効な理由も同じです。先生が何度もあいさつをするうちに、しょうがないなと生徒からあいさつが返ってくる。お互いを受け入れあったところで、そこからだんだんと信頼関係が始まり、生徒間にも広がっていくのです。

たかが「あいさつ」、されど「あいさつ」。あいさつは単なるエチケットでなく、互いを受け入れあう信頼関係の証であり、エール交換と言えます。この日々のエール交換によって、子どもたちはやる気がリセットされるのです。それは、家庭間、親子関係でも、同じなのです。

「ピグマリオン効果」と「カタツムリ評価」で、やる気リセット

  家庭でできるやる気リセット法として、「ピグマリオン効果」と「カタツムリ評価」があります。

ギリシア神話由来の「ピグマリオン効果」とは、他人の信頼や期待に応えようとする時に、潜在的な能力が開花するものだとされる理論です。「期待影響効果」とも呼ばれ実証されています。「走れメロス」(太宰治)のメロスが自分の命を捧げることを覚悟して友人のために困難に立ち向かった「大きな力」がそうです。「私は信頼されている。私は信頼されている」、と。

実は、その典型例が「日々のあいさつによるエール交換」でした。日々のあいさつ交換が困難な共働きの親御さんの中には、ひと言「ありがとう」「頑張っているね。嬉しいわ」と、メモをキッチン机や弁当に添えている方もいます。お子さんにとっては最高のエールですよね。

「カタツムリ評価」は、子どもの値打ちづくりで子の良さを見つけてあげる方法です。「良いところ見つけ」と識者は言ますが、実際はむつかしいですよね。そこで「カタツムリ評価」です。

ナメクジとカタツムリは同種なのに、殻を持たないナメクジが疎まれ、かわいい殻を持つカタツムリが可愛がられます。どうかお子さんに、かわいい殻をつけてあげてください。乱暴な子(ナメクジ)も、元気闊達な子(カタツムリ)と、かわいい殻をつけて見方を変えてやると、その子の持っている良さ(困った人に一肌脱ぐところがあるなど)を発見できるのです。

日々の肯定的評価は、その子の持っている良さを育てる、子どものやる気づくりにつながるのです。「ナメクジは 殻(から)持たぬゆえ うとまれる」にならないよう、お願いします。

「雨ニモ負ケテ、風ニモ負ケテ」みる勇気で、やる気リセット

 最後は、「雨ニモ風ニモ負ケテ」やる気リセットです。やる気づくりと言えば、「雨ニモ負ケズ、風ニモ負ケズ」という宮沢賢治の詩が思い出されますし、また使われます。しかし、「雨ニモ負ケテ、風ニモ負ケテ」みる勇気も、時には教えてあげてください。

「やる気(自己向上力)」というのは、元々誰もが潜在的に持っているものだと言われています。ですので、いつもがんばれ、がんばれとやる気を追求する必要はなく、時にはゆっくり休み、ひと息つくことも必要だということも教えてあげてください。これも、やる気リセットなのです。今日、子どもたちは疲れています。コロナ禍で、ストレスも焦燥感もため込んでいます。

コロナ禍で親も子も、どうしても意識がネガティブになりがちです。しかし、だからこそ、ぜひいろいろな方法を試して、子育てをポジティブにリセットしてほしいと願います。


國學院大學名誉教授 法人参与・法人特別参事 人間開発学部初代学部長
専門:教育社会学 新富康央
(2020年10月9日國學院大學 SUKU SUKU SCHOOL(FMヨコハマの番組『Lovely Day♡』9月放送)より転載。)

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