場所:目黒パーシモン小ホール
全国で読み聞かせ講座を開催し、「絵本よみきかせマイスター」を育成する、JAPAN絵本よみきかせ協会®代表理事の景山聖子さん。たくさんの子どもたちと接してきた景山さんが思う「絵本の読み聞かせ」は、子どもの語彙力や知識を増やす教育のためのものではなく、「心を育む」ためのものだそう。
そこで、絵本スタイリストとしても活動する景山さんに、どんな絵本を選び、どんな風に読み聞かせすれば子どもの心を豊かに育むことができるのか伺いました。
絵本選びのコツは
多彩なジャンルから選ぶこと
絵本選びのポイントはいくつかありますが、大切なのはいろいろなタイプの絵本を与えてあげること。自分の好みだけで選ばず、絵柄、ストーリー、ジャンル、そして時代の違うものなど、バラエティ豊かな絵本にふれさせることを心がけましょう。
絵本には、描いた人、描かれた時代によって、さまざまなメッセージがあり、子どもは、そこからいろいろなことを感じ取ります。例えば、古い絵本は古い価値観で描かれているので、現在の価値観とは微妙にずれていることがあります。それが悪いということではなく、そういう価値観もあるのだと、子どもにふれさせることが大切なのです。
子育ては、親の価値観の継承でもあります。善悪の判断や基本的なものの考え方など、親から受け継ぐものは多いでしょう。でもできればそれだけではなく、親の価値観にないものや新しい視点にふれ、フラットで柔軟な価値観を獲得してほしい。そうすることで多様性を育み、世の中にはいろいろな考え方があり、いろいろな人種、行動規範があるということを抵抗なく受け入れ、認められるのではないでしょうか。多様化、グローバリズムが叫ばれるこれからの世界では、たいへん重要な素養の1つだと思います。
ベストセラーの絵本には
良書とされるだけの意味がある
絵本選びのポイントは、まずその本の刷数を見ること。本の最後のページに奥付(おくづけ)と呼ばれるページがあり、ここには、本の著者、発行日などが書かれています。そこに「第1刷」と書かれていたら、それは新刊発行時に刷られたということ。ベストセラーと呼ばれる絵本には、「200刷」「300刷」というものもあります。それはその本が刷り増された回数を示し、刷の数が多いほどたくさんの人に読まれているということです。長い年月を経て、たくさんの人に読まれ続ける絵本には、やはりそれだけの強い魅力やメッセージがあり、実際読み聞かせをしていても、子どもたちがぐっと絵本の世界に引き寄せられるのを感じます。
2つ目のポイントは、自分が「イヤだな」と思うものをあえて選ぶことです。ネガティブな印象であっても、強く反応するものには何かを訴える力があります。そして、そこに描かれているものはきっと、自分が普段選ばない価値観ですから、お子さんにとっては新しい視点になるのではないでしょうか。
デジタルとアナログの
バランスよい環境を与える
現代は、AIやSNSなど、デジタル隆盛の時代です。今の子どもたちは、生まれたときからそれが当たり前の環境にいますが、生身のコミュニケーションも大切にしてほしいと思います。絵本の読み聞かせは、子どもにアナログな、人間らしいコミュニケーションを体感させるのに最適です。ページをめくる音、読む人の息づかいなど、心の奥に訴える感覚的な刺激が、子どもの成長にとってはかけがえのないものです。ですから、夜寝る前、お子さんに絵本を読んであげるときは、できれば少しふれ合って、ぬくもりを感じさせてあげてください。
子どもは、5~6歳ぐらいの時期、空想と現実の世界を混在させながら絵本の世界に没入します。ある程度の年齢になると空想とリアルを分けて考え始めますが、この時期までは、まるで実際にそこにいるかのように、絵本の中で経験し、学ぶことができます。
そして同時に、この頃に、考え方やものごとの捉え方の土台といった、人間の根幹を形成します。そうした時期に、ママの温かさやにおい、布団の感触など、五感を刺激しながら絵本の世界に入っていく経験が、子どもの豊かな感性を磨き、柔軟な人間性を育むのです。そして、それが絵本のもつ使命でもあると考えています。
ママ・パパにもプラスの効果が生まれる
そして同時に、肌をふれあわせていると、ママやパパにも、幸福ホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌され、幸福感を増幅するという効果があります。親も満たされることで余裕が生まれ、さらに子どもの心も安定するという好循環が生まれます。1つの絵本を一緒に読むという行為が親子のきずなを深めるのです。
また、絵本の読み聞かせでは無理は禁物です。読みたくないのに無理をしている、あるいは教育のために義務的に読んでいると、子どもは、そちらの感情の方を強く受け取ります。そうすると、絵本や読書自体にネガティブな印象をもってしまうことも。眠いときは一緒に寝てしまっていいのです。親も楽しく、気持ちよく絵本と向き合うことが大切です。
絵本の読み聞かせに教育的効果を期待されることも多いですが、それはあくまでも結果です。絵本を通して親子のふれ合いの時間をもった結果、語彙力が上がったり、知識が増えたり、長文読解の力がついたりという教育的メリットがついてくると考えましょう。あくまでも楽しく、ふれあう時間として読み聞かせをしてみてください。そして、そのときはなるべく子どもに主導させてあげましょう。どの本を読むか、どこで話を止めるかなど、子どもの気持ちを優先してみてください。それが子どもの自立心を育てます。
景山さんおすすめの絵本
絵本には、発達段階に応じた適性があります。
子どもの成長に合わせ、適正な情報量の絵本を選んであげましょう。
0歳におすすめの絵本
『だっこ むぎゅー』
作・絵:いりやま さとし
発行:KADOKAWA
1~2歳におすすめの絵本
『きみのことが だいすき』
作・絵:いぬい さえこ
発行:PIE International
3~4歳におすすめの絵本
『こすずめのぼうけん』
作:ルース・エインズワース
訳:石井 桃子
画:堀内 誠一
発行:福音館書店
5~6歳におすすめの絵本
『てんてんきょうだい』
文:山田 慶太
絵:田口 麻由
発行:ポプラ社
『ママが楽になる絵本レシピ31―子育ての悩みには“絵本”が効く!!』
『ママが楽になる絵本レシピ31―子育ての悩みには“絵本”が効く!!』
景山聖子(小学館)
1,760円絵本を読んだら、育児の悩みが解決する!?
絵本を読むだけで気持ちが少し楽になる。ごはんが毎回大騒ぎ、ものを大切にできない、いやいや期など、それぞれの悩みに合った絵本を1~3冊紹介します。
絵本のメッセージは子どもの心に届きます。だからママも怒鳴らず、怒らず、心穏やかになれるはず。育児に悩んだら一度読んでみてください。
お話を伺ったのは
(社)JAPAN絵本よみきかせ協会® 代表理事 景山 聖子さん
絵本スタイリスト。元群馬テレビアナウンサー。一児の母になると同時に絵本の世界へ特化し、2013年(社)JAPAN絵本よみきかせ協会設立。現在はNHKカルチャー青山教室にて「絵本のよみきかせのコツ」講座をもち、大好評で現在はキャンセル待ち。(社)全国心理技能振興会認定 心理カウンセラー、米国NLP協会 NLPトレーナー・アソシエイト、DiSC(行動特性分析)認定インストラクター、保育士資格取得。