
子どもたちが楽しく主体的に学べる体験型の授業を多く取り入れています(精華小学校)
伝統ある横浜高島屋の店頭に、小学2年生の子どもたちがデザインしたパンが並ぶ――。精華小学校の「パンプロジェクト」は、単なる思い出づくりや職業体験ではありません。市場調査から販売までを網羅した本格的なビジネスプログラムなのです。
大切にするのは、「自分が作りたいもの」ではなく「誰かに喜んでもらえるもの」を追求する視点。リアルな社会の厳しさと喜びに触れながら、子どもたちが自立心を育んでいく様子について、プロジェクトを主導する髙橋先生にお話をうかがいました。

精華小学校:髙橋 茉奈先生
「食育」から「マーケティング」へ。進化し続ける産学連携の4年間
教室を訪れると、2年生の子どもたちが手慣れた様子でデバイスに向き合っていました。作成しているのは、1年間にわたる「パンプロジェクト」の「ふりかえりスライド」です。
「どうまとめれば、みんなに自分の学びが伝わるかな」。わずか7、8歳の幼い子どもたちが、友だちや先生と意見を交わしながら、納得のいく表現を追求している姿に目を見張りました。

iPadやChromebookから使いやすい方を選択することで、表現する意欲を高めます。(精華小学校)
この授業を率いる髙橋先生は、「毎年、目の前の子どもたちの実態に合わせてプログラムを作り変えています」と語ります。
2022年度のスタート時は「食育」がメインテーマでしたが、2年目は国語と連動させた「顧客目線」の追求、3年目はアンケート結果を集計する「市場調査」へと、年を追うごとに進化させてきたそうです。
そして4年目となる今年は、さらに踏み込んで「ターゲット設定と客観視」をテーマに据えました。「自分が好きなもの」を形にする段階から一歩進んで、「届けたい相手は何を求めているのか?」を徹底的に問い直す。低学年ながらも、大人顔負けのマーケティングを体験する場となっています。
どんなパンなら喜ばれるかな?市場調査から接客までのリアルを体験
驚かされるのは、その徹底したマーケティングの手法です。子どもたちは家族や精華の人たち、習いごとの先生など、身近な人々にアンケートを取り、「甘いパンとしょっぱいパン、どちらが人気か」「いつ食べることが多いのか」といったデータを集計。その結果を踏まえた上で、デザイン案を練り上げていきます。
「宿題として、おうちの方と一緒にデザインを考える時間も大切にしています。お父さんやお母さんの知恵も借りながら、『どんなパンなら喜ばれるかな?』と食卓でも会話が弾み、アイディアを膨らませていく。このプロセスが、子どもたちの当事者意識をさらに高めてくれるんです」

自分が考えたパンのデザインの魅力を一生懸命に伝えます(精華小学校)
秋には、パンを手に取ってもらうためのポスターやポップを作成。年明けには、百貨店の役割や接客のマナーを学び、2月にいよいよ横浜高島屋の店頭に立ちました。緊張の面持ちで「いらっしゃいませ」と声をかけ、慣れない手つきで試食を配る子どもたち。
「緊張でかたい表情だった子どもたちでしたが、実際にパンを購入していただけるたびに、表情がパッと輝いていきました。教室で悩み抜いて考えたことが、社会に受け入れられた。その瞬間、学びが自信に変わったんです。」
「選ばれない悔しさ」も大切な学び。現実の厳しさを成長の糧に
一方で、このプロジェクトは「現実社会の厳しさ」も突き付けます。約80人のデザインのうち、パンとして商品化されるのはわずか4案。多くの子が「選ばれない悔しさ」を味わうことになります。
「実社会は全員が選ばれる場所ではありません。だからこそ、その現実を隠さず伝えます」と髙橋先生。選ばれなかった多くの子どもたちの想いを救うため、今年は新たにキャンディショップ「パパブブレ」とも連携。パンには不向きだったカラフルなデザインをキャンディとして商品化する道も作りました。
それでも、やはり大半のデザインは選ばれません。

パンには不向きだったカラフルなデザインが、キャンディに生まれ変わりました(精華小学校)
「くよくよしている今の自分を大切にしてね。でも、止まったままだと次のチャンスを逃してしまうよ」。髙橋先生は子どもたちの悔しさに寄り添いながらも、次へと切り替える強さを説きます。
「悔しさをどう受け止め、どう前を向くか。この体験から学んでいってほしいですね」。
「視点」が変われば世界が広がる。連鎖する「社会とつながる学び」

子どもたちの驚くべき成長を実感し、笑顔で語る髙橋先生(精華小学校)
プロジェクトを終えた子どもたちは、これまでの日常とは「視点」が変わっている、と髙橋先生は語ります。
「スーパーの陳列を見て『これは子ども向けに並べているのかな?』と仕掛けを考えたり、働く人々の姿を見て『お父さんやお母さんも、見えないところでこんなに頑張っているんだ』と思いを馳せたり。他者への想像力と、社会の一員としての自覚が確実に育っています」
そして、髙橋先生の目はすでにその先を見据えています。
「この2年生での経験を、3年生の地域学習、5年生のキャリア教育、6年生の金融教育へと連鎖させていきたい。学年や教科を横断して社会とつながり続けることが、学びをアップデートさせるカギだと信じています」