東京都目黒区にあるトキワ松学園中学校高等学校では、企業と連携した実践的な探究学習を行っています。中学2年が取り組むのは、大手総合菓子メーカー株式会社ロッテの社員とともに商品開発に挑戦するユニークなプログラム。身近なお菓子をテーマにしながら、プロの発想法や社会の仕組みについて学びます。単なるアイデア出しにとどまらず、消費者から「生産者」へと視点を変える同校の探究教育について、中里先生と田中先生にお話を伺いました。

社会科:中里 先生(左) 情報科:田中 先生(右)
アイデアだけでは終わらない。「つくる側」の視点に立つ実践的な学びを
街づくり×お菓子づくり。
都立大学の魅力を発信する商品開発に挑戦
中学2年の探究学習では、企業と連携した本格的な商品開発プログラムを導入しています。プロジェクトが2年目を迎えた今年は、お馴染みの株式会社ロッテに加えて、学校が東急線沿線に位置することから、新たに株式会社東急とのコラボレーションが実現しました。
1学期のミッションは、「都立大学のファンを作るお菓子を考えよう」。「都立大学」は同校の最寄り駅であり、生徒たちにとっては毎日通学で利用している、身近な街です。そんな大切な地元コミュニティを舞台に、生徒たちは単に「美味しいお菓子」を考えるのではなく、「地域の街づくり」と「お菓子づくり」という、全く異なる2つの視点を掛け合わせながら課題の解決に挑みます。
地元の街についてリサーチを重ね、「この街には、どんなお菓子がふさわしいのか」「どうすればお菓子を通じて街の魅力を発信できるか」をグループで話し合い、アイデアを形にしていきます。

ロッテ・東急の社員の方々を迎えて行われる探究の授業風景。プロのアドバイスに生徒たちも真剣に耳を傾けます。
このテーマが選ばれた理由について、社会科のご担当である中里先生は、「学校が東急線沿線にあることに加え、『街づくりとお菓子づくり』という組み合わせが、生徒たちにとって新しい学びになると感じた」と話します。
日々の授業には、実際に企業の社員や開発担当者が足を運び、生徒たちのアイデアにプロの視点からフィードバックを行います。さらに、外部講師による授業では、情報の整理やまとめ方についても学習。生徒たちはその学びを活かしながら街でのインタビューや調査を行い、お菓子のアイデアを具体化していきます。

1学期の集大成となるプレゼンテーション。自分たちが街のために考えたお菓子のアイデアをしっかりと形にして発表します。
アイデアを商品に変えるには?
ロッテ社員と同じ発想法を学ぶ
1学期の学びを踏まえ、3学期にはさらに一歩踏み込んだプロ仕様の商品開発に挑戦します。
生徒たちが取り組むのは、株式会社ロッテの社員が実際に使用しているものと同じ形式の企画書を使った商品企画です。授業では、株式会社ロッテ独自の新商品開発発想法についても学びます。これは、「新しい商品というのは、異なるもの同士の意外な掛け合わせから生まれる」という考え方。
例えば、「うちわ」と「扇風機」を掛け合わせて大ヒットした「携帯扇風機」や、「自動車」と「キッチン」を組み合わせた「キッチンカー」のように、私たちの身近な商品にもこの発想が生かされています。
生徒たちはこの考え方をもとに、「誰に届けたいのか」「その人は、日々の生活の中でどんな課題や希望をもっているのか」「このお菓子を食べることで、その人にどうなってほしいのか」を考えながら、新しいお菓子のアイデアを企画書にまとめていきます。

友だち同士で意見を出し合い、大人のターゲット層にも響く具体的なコンセプトを形にしていきます。
授業の大きな教育的狙いについて、中里先生は次のように話します。
「この授業の最大のテーマは、お金を使うだけの『消費者』から、価値を生み出す『生産者』の立場に立ってみることです」。
自分たちにとって身近なお菓子やアイスをテーマにしているからこそ、生徒たちは自由な発想でアイデアを広げていきます。しかし、ターゲット像や価格設定、実現可能性まで考え始めると、商品開発の難しさに直面します。理想だけでなく、根拠を持って考える経験を通して、生徒たちは少しずつ「生産者」としての視点を身に付けていくのです。
企業連携で育んだ視点を、高校での本格的な探究活動へつなげる
生徒たちが、こうした高い壁に挑戦できるのは、学校と連携企業による手厚いサポート体制があるからです。
先生方は事前に企業側と打ち合わせを重ね、生徒たちの雰囲気や、生徒たちに響く教材の傾向を共有。実際の授業が始まると、講師を務める企業の方々と連携しながら各グループを回り、生徒たちの「壁打ち相手」として考えを深めるサポートを行います。

講師も真剣に生徒のアイデアに耳を傾けます。
「プロジェクトがひとたび進み出すと、もう教員は教壇に立っている暇などありません。本当に生徒たちの机の間をぐるぐると回り続け、良き壁打ち相手になって伴走していくのがメインの仕事になります」と中里先生。企業側からも、複数の社員や開発のプロが参加するため、「これって実際に作れますか?」といった疑問にその場でリアルな回答が得られる贅沢な環境です。

行き詰まっているチームに講師が問いかけ、生徒たちが自ら答えを導き出せるようサポートします。
こうした企業連携で培った「生産者の視点」は、その後の探究学習にも生かされています。中学2年後半には生成AIを活用したアプリ開発に挑戦。自分たちが「使う側」の消費者ではなく、「こんなアプリがあったらいいのではないか」と考え、実際に形にしていきます。
さらに中学3年では、「統計グラフコンクール」への参加を通して、アンケートの取り方や情報の集め方、データの分析方法を学習。高校での本格的な探究活動に必要となる基礎力を身に付けていきます。

昨年度はスーパーのライフと連携し、売り場の仕組みや販促について学習。商品の見せ方やPOPづくりを通して、小売りの視点から「売れる工夫」を考えました。
単に「お菓子を考える」という楽しさだけで終わらせず、社会のリアルな壁にぶつかりながら「生産者」としてのマインドを育むトキワ松学園の探究学習。中学2年での確かな成功体験と主体的な視点は、高校、そしてその先の未来へとつながる強固な土台となっています。