「美術が好き」という共通の思いを持つ生徒が集まる女子美術大学付属高等学校・中学校。美術の技術を磨くだけではなく、その興味を一般教科や海外での学びにもつなげながら、一人ひとりが自分らしく成長できる環境があります。
学校が掲げる「智の美」「芸(わざ)の美」「心の美」に込められた思いや、女子美ならではの教科横断的な学び、新たに始まった海外研修について、並木憲明先生にお話を伺いました。

女子美術大学付属高等学校・中学校 主幹教諭・広報部主任 並木 憲明 先生
「美術が好き」を入り口に、「これが一番自分らしい」を見つけてほしい

大好きな美術に思いきり向き合える環境のなかで、それぞれの感性を表現する生徒たち。一人ひとりの形を変えることなく、その子らしい成長を支えるのが女子美の教育です。
その子らしさはそのままに、一人ひとりに寄り添う
本校では、教育理念として「智の美」「芸の美」「心の美」という3つの美を掲げています。「智」は勉学、「技」は美術の実技、「心」は人としての心を表しています。
では、ここでいう「美」とは何でしょうか。学校が「これが美しい」「これは美しくない」と一つの尺度を示すものではないと、私は考えています。何を美しいと思うのか、その基準は一人ひとり違っていていい。その人自身が持つ尺度を大切にすることが、本校の教育の根底にあります。
勉強についても、「この学校の生徒ならこの大学を目指さなければならない」といった基準は設けていません。実技も同じです。全員が日本一、世界一の技術を目指す必要はありません。大切なのは、自分自身が「これが一番自分らしい」と思えるところを目指すことです。

高校2年生が夏休みの課題として制作する「女子美祭」のポスター。同じテーマでも表現は一人ひとり異なり、それぞれが自分らしい表現を追求しています。
私は本校の教育を、「その子の形を変えずに、相似形のまま大きくする」と表現することがあります。入学した生徒を学校が決めた型にはめるのではなく、その子らしさはそのままに、それぞれに寄り添い、アドバイスを重ねながらパワーアップさせていくイメージです。
「個性を伸ばす」と簡単に言いますが、私は「個性」は学校がつくったり、変化させたりするものではないと思っています。個性はすでに生徒自身の中にあるものです。それをしっかりと表に出せるようにしていく。そのためには、目の前の一人ひとりに向き合い続けなければなりません。時間も手間もかかりますが、そうした積み重ねによって、本校の教育は成り立っているのだと思います。

アートの要素も取り入れた運動会も“女子美ならでは”の一大行事。衣装や小道具、団幕など、すべて生徒たちが作り上げ、それぞれに工夫をこらした演技を披露する高校生応援団による応援合戦は、もっとも盛り上がります。
「美術が好き」から広がる、教科の枠を超えた学び
本校の特長というと、まず美術教育を思い浮かべる方が多いと思います。しかし、私が実はとてもおもしろいと感じているのが一般教科の授業です。
本校に集まっているのは、何よりも「美術が好き」という生徒たち。そこで一般教科の教員たちは、美術への興味をそれぞれの教科の学びにつなげる工夫をしています。
例えば社会科なら、歴史を学ぶ際に美術史や装束、色などを取り上げると、生徒たちの興味がぐっと高まります。化学では、元素をキャラクター化してカードを制作する授業もあります。国語では、松尾芭蕉の俳句から生成AIに絵を作らせ、生徒たちが「自分のイメージとは違う」と感じたところから、自分が思い描く情景を表現させるためのプロンプトを考えるという授業も行われました。

リベラルアーツの考え方を大切にする女子美では、一般教科の授業にもさまざまな工夫が。「一般教科こそが本校の特長」と並木先生は話します。
美術という、生徒全員が興味を持っているものを入口にすると、国語、社会、理科、英語など、さまざまな教科へ自然に関心を広げていくことができます。
その取り組みを学校として体系的に発展させたものが「Art ENGLISH」です。美術と英語を教科横断的に結びつけ、中学1年生から高校3年生までの6年間を通したカリキュラムとして取り組んでいます。
アートに関する英語表現や作品の鑑賞方法を学び、自分の作品について英語でプレゼンテーションをしたり、アートをテーマに意見を交わしたりしながら、学年に応じて表現力を高めていきます。

取材当日の高校1年生の「Art ENGLISH」のテーマは「the Principles of Design」。実際の作品を例にcontrastやpattern、movement、balanceなど、デザインの原則を英語で学習。後半は、生徒同士で意見を交わしながらワークシートに取り組みました。
このように、本校では美術だけを専門的に学ぶのではなく、幅広い教科に触れ、それぞれの学問と美術を結びつけていくことを大切にしています。美術大学の付属校でありながら普通科課程であるのも、そうした考えからです。美術を軸にしたリベラルアーツともいえる学びこそ、本校ならではの魅力だと感じています。

「Art English」は、海外で美術教員の経験もあるトリーナ先生と日本人の英語教員により開発されたオリジナルプログラム。グローバルな舞台で自分の好きなことを表現できる力を養います。
語学だけではない、本物のアートとデザインに触れる海外研修
海外に目を向ける生徒が増えるなか、本校では国際教育の機会も広げています。2026年度には、中学生を対象とした初めての海外プログラム「マレーシア語学・文化研修旅行」がスタートしました。
この研修は英語学習を中心としながら、現地の文化にも触れるプログラムです。語学学校ELCと共同でプログラムを組み、午前中に学んだ英語を、午後のアクティビティで実際に使います。
本校らしい体験として、ナショナルアートギャラリーを訪れたり、伝統工芸のバティック染めに挑戦したりするほか、モスクや現地の家庭も訪問。出発前には、女子美術大学の教授らによる染織文化の事前学習も行い、専門的な視点を持って現地での体験に臨みました。

中学生対象としては初となる海外プログラム「マレーシア語学・文化研修旅行」。2026年度は約20名が参加しました。
高校生を対象とした新たなプログラムとして、「アメリカ ロサンゼルス美術・企業訪問ツアー」も実施しました。こちらは「デザイン」をテーマにした研修です。現地では、幅広い分野のデザインを手掛けるGKデザインインターナショナル(GKDI)を訪問しました。
渡航前にはGKDIから課題が出され、生徒たちは4人1組のチームで、アメリカで販売するバーベキューソースやポテトチップスのパッケージを考案。現地で英語によるプレゼンテーションを行い、デザイナーから講評を受けました。さらに、GKDIからの紹介でヤマハの楽器デザインスタジオも訪問することができました。

高校1~3年生16名が参加した「アメリカ ロサンゼルス美術・企業訪問ツアー」。企業訪問や美術館見学に加え、ワーナー・ブラザースのスタジオツアーにも参加。海外での美術研修旅行では、本場に足を運び、本物に触れることを大切にしています。
同じ「デザイン」の仕事でも、さまざまな企業の仕事を手掛けるデザイン会社と、一つの企業の中で製品づくりに携わるインハウスデザイナーとでは、働く環境も仕事のあり方も大きく異なります。高校生のうちに、その両方を実際の現場で見ることができたのは、とても価値のある経験だったと思います。
生徒たちは、美術館やスタジオを訪れたり、現地の文化を楽しんだりと、それぞれに海外での時間を満喫していました。今はまだ、そこで見たものの価値をすべて理解していなくてもいいと思っています。
いつか自分の進路や仕事を考えたときに、「あのとき見たものは、こういうことだったのか」と気づいてくれたらうれしいですね。本物がある場所へ行き、自分の目で見る経験には、そんな力があると思っています。