小学部の先生方が、一層質の高い教育を行うために取り入れているという、コーチングについて教えてください。
私自身が資格をもっている 「エグゼクティブ・コーチ」というコーチングスキルを、教育現場で活用しています。コーチングは、サポートを受ける人の自発的な行動を促すために、コーチが「傾聴」「承認」「質問」という3つのスキルを用いて答えを引き出すものです。一番のポイントは「コーチはサポートする相手が持っている答えを引き出す」ということで、「サポートする人に正解を教えるのではない」という点です。
親子を例にとってみましょう。子どもが何かを迷っているとき、親は子どもがどうしたいのかを会話の中から引き出し、子どもに決めさせることが重要です。親が「こうしなさい」と決めるものではないのです。しかし、よくあるのは、親は「こうしたほうがいいんじゃない?」と言いたくなります。子どもは自ら考えずに「これがいいのか!そうしよう」と思ってしまいます。そのうちに常に答えを待つようになってしまいます。大切なのは、子どもに対して、なぜそうしたいのか、次はどうするのかという問いかけをしながら、自分で決めさせていくことなのです。
それは学校でも同じです。先生方に対して私が「来週からこうします」というと「はい」となりますが、「来週からどうしたらいいかを考えてください」というと、真剣に考え、さまざまな提案が出てきます。さらにそれについてのメリットと問題点、その解決策をヒアリングし、質問すると、その解決のために、文献を調べたり他の先生の意見も聞いたりという行動が生まれ、自分だけでは思いつかなかった別の視点が見えてくるのです。こうした日々の繰り返しによって、先生たちは子どもたちへの最善策を常に考えながら、動けるようになります。
ベストでなくていいんです。ベターでいい。それを考える過程が重要で、それが次回はこうしたらもっとよくなるかも、というアイデアにつながります。これが先に述べた「答えは自分で持っている」という意味です。コーチングをきっかけに、さらに優れた教員になることを目指します。
今後の目標を教えてください。
小学生の6年間は身体的にも精神的にも大きく成長します。人間の基礎を作る大切な時間をお預かりする責任はとても大きく、保護者に対してもエビデンス、科学的な根拠をもとに出口をお見せしながらしっかりとした教育をこの後も引き続き行っていきます。
そのなかで最も大切にしたいのが、子どもたちの未来です。英語力や海外研修などのグローバル教育はもちろんのこと、Society 5.0の実現による「超スマート社会」にも柔軟に適応できる学力・能力と人間力を大切に育むことが最大目標であり、私たちの使命であると考えています。
川原田康文先生■相模女子大小学部校長
≪profile≫
・神奈川県の中学校教諭、神奈川県教育委員会指導主事、横浜国立大学教育人間科学部准教授、立命館小学校教諭を経て、相模女子大小学部へ。副校長を経て、2020年、校長就任。
・ロボティクス教育研究の第一人者として、教材やテキスト作成、ロボットの競技大会に多く携わる。さらに、小・中学校向けに、Pepper(ソフトバンク)を活用したプログラミング授業の構築や、社会貢献プログラムの教師用指導書も監修・執筆。