おいしいものを食べて「おいしい!」と反応できることの意味とは何でしょうか。
「10歳を過ぎてしまっても、その後知識でなんとかなるならよいのでは?」と思われる方もいるかもしれません。
しかし、味育をしっかり行うことの本質は、“健康”と関わることにあります。
私は、高齢者施設で食に関するヒアリングを行うことがあるのですが、高齢でも食事をしっかりかんで味わっている方は、母親が料理上手だったとか、これまでさまざまな食の体験をしていて、食生活の質が高い傾向にあります。
一方で、歩行や言葉がおぼつかない方からは、若い頃から外食がちだった、日常的にインスタント食品を食べていた、という話を聞くことが多いのです。
もちろん、すべての方に当てはまるわけではありませんが、3歳までにハードウェアを作り、9〜10歳までに味の体験をインストールしておくことが、自身の健康維持や寿命にまで関わってくるのだろうと強く実感しています。
「味の体験」を積ませるには具体的にどうすればいいでしょうか。
子どもの味育にとって何が最も大切か。
それは毎日の食事です。
そう聞くと、「毎日手作りの料理を食べさせなくちゃ」「体に悪い食べ物を気づかずに与えていたらどうしよう」と、プレッシャーを感じてしまうお母さんがいるかもしれませんが、大丈夫です。
食品や食材をきちんと選ぶこと、普段の食事で多様な味の体験を積ませてあげること、このふたつができれば子どもの味覚を育むことはできます。
食品選びは、合成添加物の取り過ぎに注意しましょう。
大量に摂取すると人工的な成分を排せつするために、普段より余計に腎臓や肝臓、脾臓などが働くため、子どもの小さな体には負担が大きく、内臓疲労を起こしやすくなってしまいます。
また食材選びでは、野菜なら旬のものを。さらに、自然栽培で作られた野菜であればベストです。
ママ、パパが気を付けるべきことは、どういう野菜ならより健康に寄与するのか、動物性の食材であれば、子どもの内臓に負担のかからないものは何か、という基準や目安をもつことです。
ぜひ一度情報収集をして勉強していただきたいと思います。
そして、さまざまな味の体験を積ませるためには行事食、伝統食を取り入れてください。
おせち料理からはじまり、七草かゆ、ひな祭りのちらし寿司、お彼岸のおはぎや冬至のかぼちゃ料理など、行事食はいろいろな食材を扱いますし、レシピも季節に合わせて変化していきます。
当然、旬の食材も取り入れられるので、とてもいい味の体験になります。
もっと言うと、お友だちの家で夕食をごちそうになるとか、お祭りやバザーで近所のおばちゃんたちが作った豚汁を食べるとか、そういう体験も味育にはとてもいいんです。
それは、ママが作る料理とは違う味の体験ができるだけなく、「お祭りの楽しい思い出」とともに味の記憶がインストールされるからです。
このとき大切なのは、近所のおばちゃんの料理がおいしいか、おいしくないかではなく、「楽しく食べたか」ということ。味覚は快・不快といった情感と密接に結びついていて、楽しい記憶とともにインストールされた味の体験は、「快感=好ましい食べ物」として脳内に蓄積されます。
その結果、後で同じような風味が口に入ってきたときも、「これはおいしいものだ!」と脳内のデータベースが作動して、食欲が増す、おいしく味わって食べられるなどのサポートをしてくれるのです。
最近ではお祭りや自治体単位の集会なども少なくなり、家庭の外で味の体験を積ませる機会が減っていると思いますが、食のワークショップに参加したり、親子で料理教室に行ったりするのもとてもいいですね。
お話を伺ったのは
宮川 順子さん
MIIKU日本味育協会代表。料理教室Convivialite’ Miyagawaを主宰。長男のアレルギーを機に独学で食に関する研鑽を重ね、調理師、フードコーディネーター、食育コーディネーターなどの資格を取得。安心安全で健康を守る食を広めるため、日本味育協会を設立。詳しくは「宮川順子の“おいしさ学”」サイトをチェック。
宮川順子さんの公式サイトはこちらから