【食育】今知るべき、子育てのための味覚学(日本味育協会)

少食の子、好き嫌いの多い子にはどのように味育をすればいいのでしょうか?

まず、食べられない子どもに対して絶対にやってはいけないのは、無理やり食べさせたり、「食べなさい」と命令したりすることです。
「健康にいいんだよ」とか、「頭が良くなるよ」と言ってだますようなやり方も逆効果。子どもが嫌な思いをして食べたものは、「不快=好ましくない食べ物」としてインストールされてしまいます。
食べてほしいなら、大人がおいしそうに食べるところを見せてあげてください。そして「子どもにはもったいないから隠しておこう」などと、大人が食を楽しむ様子でうらやましがらせる。
その方が子どもは気になって、食べたい気持ちが強くなります。
また、子どもの味覚は、実は大人の3〜5倍ぐらい敏感で、特に酸っぱい(=腐敗のサイン)、苦い(=毒性があるかもしれない)は生命の危険に関わるため、本能的に嫌がる傾向がありますから、酢の物や酸味の強いフルーツ、苦味のある食材は食べられなくて当然と思ってください。

親御さんからお子さんの偏食や好き嫌いについて相談を受けることはよくありますが、その原因がご家庭内にあることも少なくありません。
例えば、「子どもが食べられないものが多くて困っている」というとき、「ご家族にもその食材を嫌いな人はいませんか?」と聞くと、大半が「いる」と答えます。
子どもは驚くほど周囲の状況を見ていて、「おいしい」という味覚を、口の情報だけでなく食卓の雰囲気や大人の機嫌などとセットで覚えます。
ですから、食事のときに小言を言われたり、夫婦げんかをしていたりするなかで食べたものを「不快=好ましくないもの」として記憶することもあり得るわけです。
つまり大人が食事をしっかり楽しむことも、子どもの味育にとって非常に大切なのです。
味育のコツは、食べ物が「おいしくない」側に仕分けされないようにすることなのですが、一度「おいしくない」データベースに入ったものは、なかなか元に戻りません。
万が一入ってしまったら、それは潔く諦めてください。無理やり食べさせる努力をするよりは、同じ栄養価のある食材に置き換えたほうが建設的ですし、意外とすんなり食べてくれることも。
また、子どもの成長過程で楽しい記憶とともに苦手な食べ物も「好ましいもの」として上書きされ、次第に食べられるようになる可能性もあります。
ですから、大人があまり固執しないことも重要なのです。

家庭で味育を実践するコツを教えてください。

子どもの味覚は大人の3〜5倍近く敏感なので、大人が「おいしい」と感じる料理を同じように食べさせていると、味覚形成はうまくいきません。
ご家庭で料理を作るとき、味つけで迷ったら“薄い味”にしてください。お吸い物がちょうどそれぐらいで、塩分濃度0.8%、つまり人間の体液と同じぐらいになります。
食事の際、多くのご家庭ではごはんを食べると思います。白米があると口の中で塩分濃度が薄まるので、日本のおかずは塩分濃度が1.2%程度とやや高めのものが多いです。
おかずとごはんをバランスよく食べて塩分濃度0.8%となるよう、意識してみるといいでしょう。おかずばかり食べる傾向があるお子さんなら、おかずの塩分濃度を0.8〜1%に抑えるといいでしょう。

ちなみに、ポテトチップスの塩分は1.4%もあります。おやつなどで頻繁に食べていると味覚が鈍ってしまうこともあるので注意が必要です。
食材のおいしさを生かす調理を心掛けることも大切です。
特に魚や肉など動物性の食材はもともと塩分を含んでいるので、それを引き出す程度のほんの少しの塩を加えれば十分。
野菜に含まれるでんぷん質にも甘みがあるので、塩を少しふって甘みを引き出すととてもおいしくなります。このように、塩の特性を生かす調理法も味育には効果的です。
また、「おいしく感じる味つけのコツ」として、「旨味(タンパク質)+塩分0.8%+少し酸っぱいor少し苦いアクセント」を覚えておくと便利です。
まず、メインの食材は三大栄養素のひとつ、身体作りに欠かせないタンパク質を含む肉や魚、大豆製品を選びます。
タンパク質には旨味の素となるアミノ酸が含まれているので、0.8%程度の塩分で味つけ(塩、しょうゆ、みそ、ソース…なんでも自由に)するだけで「おいしい」を確定させることができるのもポイント。
そこに少しの酸味、あるいは少しの苦味をアクセントとして添えると、さらに脳が「おいしい」側に仕分けしてくれます。酸味なら少しレモンを絞ったり、苦味のあるゴマやナッツを仕上げにかけたりするなどで風味をアップさせます。このように味の組み立て方を知っておくと、献立を考えるのも楽しくなるのではないでしょうか。
味育を実践するには、まず何よりも大人が楽しんで食べたり、料理を作ったりすること。
そして、子どもの味覚の特長を知った上で、食材や調味料を選ぶ判断基準をもつこと。
さらに親御さんの料理だけでなく、さまざまな味の体験を積ませてあげること。そんな風に、大人が楽しんで、子どもと一緒に食の思い出をたくさん体験することが豊かな味覚育成につながります。
そうして蓄積され、形成された味覚が、何歳になってもお子さんご本人の人生を豊かに育む源流となってくれるのです。

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お話を伺ったのは

宮川 順子さん

MIIKU日本味育協会代表。料理教室Convivialite’ Miyagawaを主宰。長男のアレルギーを機に独学で食に関する研鑽を重ね、調理師、フードコーディネーター、食育コーディネーターなどの資格を取得。安心安全で健康を守る食を広めるため、日本味育協会を設立。詳しくは「宮川順子の“おいしさ学”」サイトをチェック。
宮川順子さんの公式サイトはこちらから

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